{霧の中の恋人}
「…そっか…。
まあ、良かったな」
「…う、うん」
私は罪悪感でいっぱいになる。
「それにしても、ビックリしたなー。
夜に来客がいるだろ?
それも男。
お前に、男ができたのかと思ったぜ」
「そんなことない!!」
私のあまりの大声に、大ちゃんはビックリした顔をしている。
「そんな思いっきり否定することないだろ?
自分に男がいないって、そこまで否定する奴も珍しいよな。
まあ。どんくさいところを直さない限り、本当に彼氏なんて出来ないかもな~」
ケラケラと笑う大ちゃん。
「どんくさいって何よ!」
「小学生のとき、隣町で迷子になったことあっただろ?
それで、夜になっても帰ってこないお前を探しに行ったりとかぁ~?
遠足のとき、弁当忘れたこともあったよなー。
出発前に俺のところに泣きついてきて、俺が家までダッシュでとりに行ったりとかぁ~?」
からかうような口調で、面白そうに私の顔を覗き込む大ちゃん。
「もう!何年前のこと言ってるのよ!
それに泣いてなんかいないじゃない!」
居た堪れなくなって、私は顔を背けた。
「わりぃ、わりぃ。
そんなに怒んなって。
お前、そういうことでムキになるところは、昔っから変わんねぇよなー」
大ちゃんは小さい子をあやすように、私の頭をポンポンと叩いた。
「ほら、コレやるから機嫌直せよ」
カバンの中からチョコレートを取り出し、私の手に握らせる。