{霧の中の恋人}
…チョコレート…。
昔から変わらないのは大ちゃんのほうだよ。
大ちゃんは昔から何かある度に、チョコレートをくれた。
転んだとき
お母さんに叱られたとき
喧嘩して仲直りするとき
それを食べると、明るい気分になれた。
でもね。
もうチョコレートをもらって喜ぶ子供じゃないんだよ。
いつになったら、大人として扱ってくれるのかな?
大ちゃんに子供扱いされたくなくて、私頑張ってるんだよ。
メイクも勉強したし、服装だって大人っぽいものを選んでる。
「じゃあな。また今夜もお前んち行くから」
そう言って、大ちゃんは大学の中に入っていった。
「‥‥…」
『今の関係を変えたい』と願う私。
もう一方で、『今の関係を壊したくない』と願う臆病な私は、今日もチョコレートを口に運ぶ。
ミルクがたっぷり入った甘いチョコレート。
今日は少し、苦い味がした。
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