{霧の中の恋人}
「知らない男と一緒に暮らすことになったぁ!?」
泉が声を荒げた。
周りの生徒たちが一斉にこちらを向く。
先生がゴホンとわざとらしい咳払いをする。
泉、授業中だよ。
「ちょっとソレどういうことよ!?
知らない男と同棲って…ふごっ」
私は泉の口をおさえた。
「ちょっと、泉。声が大きいよ」
押さえていた手を退けると、泉は声を抑えて「ごめん、ごめん」と言った。
「でも、突拍子もないこと言うもんだから驚いちゃって」
泉が驚くのも無理ないよね。
普通、出会って間もない男と暮らすなんて有り得ないもん。
「でもさ、瑞希って大地さんのことが好きなんでしょ?
なんで違う男と同棲なんて…」
「違う違う。同棲っていうんじゃなくて」
「男と2人で暮らすのを同棲って言わないで、何というのよ」
確かに泉の言うとおりだけど、同棲なんてそんな甘酸っぱい響きじゃない。
詰め寄る泉に、私はなんて説明しようか考えた。