{霧の中の恋人}
「ふぅん、お母さんの恋人ねぇ」
泉はシャーペンをくるくる回しながら言った。
結局、昨日あった出来事を一から順に話した私。
「でも、そんな得体の知れない男と暮らすなんて大丈夫!?
ちゃんと信用できる人なの?」
信用は……
まったく出来ない。
「けど、もう住むところないし…。
お母さんが久木さんの言う通りにしろっていうし…」
「そもそも、そのお母さんの手紙っていうのも本当なの?
その人が書いたっていうことはないの?」
「ううん。それはないと思う。
だって、お母さんの字だったし」
あれは確かにお母さんの字だった。
文章もお母さんが書いたものに間違いない。
何故か、私は確信を持っていた。
「お母さんの恋人っていっても、危ないんじゃないの?
何かあったらすぐ電話してよ!?」
「ありがとう泉」
話をまったく聞いていなかった授業が、いつの間にか終わっていた。
私たちは教室の外に出る。