{霧の中の恋人}
引っ越すと決めたのだから、その準備をしなくてはならない。
10数年も住み続けた家の整理は、思っている以上に大変なことに違いない。
どこから手をつければいいのだろうか…。
ダンボールを貰ってきて、さっそく作業を始めたが、それは思うように進まない。
膨大な作業もそうだけど、すべてのものにお母さんとの思い出がつまっていて、その整理をするのは辛すぎた。
お母さんと一緒に買いに行った食器
お母さんが履いていたスリッパ
お母さんが好きだったCD
すべてを持っていくわけにはいかない。
何かを捨てなければならない。
その作業は、あまりにも辛すぎた。
「ハァ……」
今夜はもうやめよう。
私は床の上にゴロンと横になる。