{霧の中の恋人}
私の言葉に、3人はしばらく呆然としていた。
「…本当なのか?」
最初に口を開いたのは大ちゃんだった。
「…うん…」
「なんで突然、引越しなんて」
珍しく、大ちゃんが少し怒ったような口調で、私を真っ直ぐ見据えた。
私は大ちゃんの顔をまっすぐ見る勇気がなくて、顔を俯かせた。
私は、これから嘘をつかなくてはいけない。
罪悪感と、切なさで胸が苦しくなる。
「家賃のこともあるし、親戚の人が一緒に暮らさないかって言ってくれて…」
「親戚って、あの男と一緒に暮らすってことか!?」
大ちゃんが声を荒げる。
「…ううん!あの男の人は、もう実家を出てるから1人暮らしをしているの。
その家族の人たちと暮らすことになるんだけど……」
嘘は用意してあった。
どうしても男の人と2人で暮らすなんて、大ちゃんに言えなかったし、1人暮らしをすると言えば、大ちゃんは家に訪ねてくるだろうから。
私、最低だ。
今まで可愛がってくれた、おじさんやおばさんに嘘をついて
大ちゃんにもまた嘘をついている。
いつもまっすぐで、曲がったことが嫌いなこの人に…。
一番、嘘をつきたくない人なのに…。
一度ついた嘘は、それを守るために嘘を重ねないとならなくなる。
嘘は、雪だるまのように大きくなっていく……。