{霧の中の恋人}
「…嫌よ…。瑞希ちゃんがいなくなるなんて嫌よ…」
おばさんが目に涙をためて、首をブンブン横に振った。
「おばさん…」
「家賃のことなら心配ない。
瑞希ちゃんが良ければ、うちで暮らさないか?
本当の娘のように思っているんだ。
遠慮なんかいらない」
「おじさん…」
ごめんさいという言葉でいっぱいになる。
「…ありがとうございます。
でも、親戚の人がいるって分かって嬉しかったんです…。
だから私…」
最低だ。
自分はなんて最低の人間なんだろう。
こんなにもよく思ってくれている人達に、こんな嘘をつくなんて…。
私は膝の上で、ギュッと手を握る。
「瑞希ちゃん、もう分かったよ。
だが、これからも顔を見せてくれ」
おじさんが悲しそうな笑顔を浮かべながら言った。
「そうよ。瑞希ちゃんは、私達の娘でもあるんですからね」
おばさんが目頭を押さえながら言う。
「ありがとうございます。
本当に、何ていったらいいか…」
「いいんだ。
瑞希ちゃんには、瑞希ちゃんの人生があるんだ。
新しいところでも頑張るんだよ。
辛かったら、いつでも戻ってきていいんだから」
おじさんの言葉に涙が出そうになる。