{霧の中の恋人}
新月の夜に
「引越し日和だな」
一週間後、夜の10時きっかり。
久木さんは言った通りにやって来た。
そして、開口一番にこの台詞だ。
「どこがですか!?」
私は思わずツッコミをいれる。
とっくに陽は暮れて、辺りは闇に包まれている。
『一週間後の夜10時に迎えにくる』
あとで久木さんの台詞を思い出し、私は聞き間違えだと思った。
こんな夜遅くに引越しをするなんて有り得ないと思ったからだ。
だが、昼間の10時に準備を終えていくら待っていても、久木さんはやって来なかった。
きっと日にちを間違えたのかも…。
やっぱり冗談だったのかも…。
なんて思い始めて、そろそろお風呂に入ろうと思った矢先、久木さんはやって来た。
時計を確認すると、針は10時きっかりを示していた。
聞き間違えじゃなかったらしい。
「今日は新月だ。
月明かりがなくてちょうどいい」
「何がちょうどいいんですか!?」
暗すぎてダンボールもよく見えないっていうの!!