{霧の中の恋人}
家からダンボールを運び出し、外にそれを積み重ねていく。
すべてのダンボールを運びだしたあと、私は聞いた。
「久木さん、トラックとかないんですか?
まさか、歩いて運ぶとか?」
「君はバカか。
そんな訳ないだろう。
直に迎えがくる」
久木さんが腕時計を確認した。
「迎え?」
私が聞き返したあと、すぐに大きいトラックがやって来て、目の前に止まった。
そして運転席のドアが開く。
「遅い。1分の遅刻だ」
久木さんが不機嫌そうに言うと、運転席から男の人が降りてきた。
「そう言うなって。
信号に捕まったんだからしょうがないだろー」
降りてきた男性は、久木さんの肩に手を置いて答えた。
その手を振り払ったあと、久木さんは腕を組む。
「時間がない。
とっとと始めるぞ」
「へいへい」
男の人は軽い返事をして、ポケットから軍手を取り出し、それを手にはめた。
「あの…あなたは…」
その男の人はニカっと笑った。
「あ、俺?
紫蘭のマブダチの不知火 洋平!
よろしくねー」
不知火(しらぬい)さんは私を手を取って、ブンブン振った。