{霧の中の恋人}
「瑞希さん、引っ越したんだって?」
ミニブーケを組む作業をしながら、横に並んだ俊輔くんが話しかけてきた。
私がお花を組んで、俊輔くんが紙で巻いていく。
「うん。ちょうど一週間前にね」
「大地さんと暮らしてるわけじゃないんでしょ?」
「暮らしてないよ!同棲なんて…そんな…」
同棲という響きに顔が熱くなる。
大ちゃんと同棲なんて…
出来たらいいな…なんて思ったりもするけど…。
「だと思った」
俊輔くんは横目でチラリと私を見て、薄く笑った。
「…なんでそう思うのよ…」
「だって、瑞希さんには告白する勇気なんてないでしょ」
決め付けるような言い方に、私は少しムッとして俊輔くんを睨む。
俊輔くんはそれに怯む様子もなく、話を続ける。
「告白する勇気があるなら、もうとっくそういう関係になってんじゃない?
今まで告白する時間もチャンスも沢山あったはずなのに、出来なかった。
告白すら何年も出来なかったのに、急に同棲にまで話が発展するなんて飛躍しすぎだよ」
「うっ……」
俊輔くんの言うことがいちいち図星過ぎて、何も言い返せない。
中学3年生の俊輔くんに言い負かされるなんて…。
悔しい…!