{霧の中の恋人}
「ただいまー…」
返ってこないと分かっていても、習慣になってしまっている挨拶を玄関先で呟く。
『おかえりなさい』
笑顔で迎えてくれる人はもういない。
シンと静まり返った長い廊下を進み、リビングに着くとキッチンからゴソゴソと物音がする。
「…久木さん?」
恐る恐る声をかけると、久木さんがキッチンにある冷蔵庫から頭をあげた。
「戻ったのか」
「ギャー!!」
立ち上がった久木さんの姿に、私は悲鳴をあげた。
「失礼なやつだな。
人の顔を見た途端、化け物にでも遭遇したような悲鳴をあげるなんて」
だって、だって…!
「なんで裸なんですか!?」
上半身裸で、ジーンズだけの姿。
細身だと思っていたけど、結構しっかり筋肉がついてる…
…じゃなくって!!
「何か着てください!」