{霧の中の恋人}

「ただいまー…」

返ってこないと分かっていても、習慣になってしまっている挨拶を玄関先で呟く。


『おかえりなさい』

笑顔で迎えてくれる人はもういない。



シンと静まり返った長い廊下を進み、リビングに着くとキッチンからゴソゴソと物音がする。


「…久木さん?」


恐る恐る声をかけると、久木さんがキッチンにある冷蔵庫から頭をあげた。


「戻ったのか」


「ギャー!!」

立ち上がった久木さんの姿に、私は悲鳴をあげた。



「失礼なやつだな。
人の顔を見た途端、化け物にでも遭遇したような悲鳴をあげるなんて」



だって、だって…!



「なんで裸なんですか!?」


上半身裸で、ジーンズだけの姿。

細身だと思っていたけど、結構しっかり筋肉がついてる…



…じゃなくって!!

「何か着てください!」




< 64 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop