{霧の中の恋人}
「女性?
女性だったら、もっと可愛らしい悲鳴でもあげたらどうだ。
さっきの君の悲鳴は、女性のソレではなかった。
いや、アレはもはや悲鳴ではないな。雄叫びだ。」
小馬鹿にしたような言い草。
それを無表情で淡々と言うところが余計に腹ただしい。
俊輔くんといい、久木さんといい、言いたい放題に言って!
「もう!何でもいいですから上着てください!」
「ギャーギャー騒ぐな。
心配しなくとも、これから夕飯なんだ。
君に構っているほど暇じゃない」
誰が構ってくれなんて言ったのよ!?
久木さんは冷蔵庫から、ビスケットの簡易食と缶コーヒーを取り出し、スタスタと自分の部屋に戻って行った。
ちょっと待って…。
夕飯あれだけ!?
冷蔵庫の中身から察するに、ろくな食生活を送っていないことは分かっていたけど、ここまでとは思わなかった。
今の時代、24時間コンビニが開いているのだし、調理をしなくても済むインスタント類だって充実している。
せめてコンビニのサラダくらい食べればいいのに…。
こんなんじゃ、いつか身体を壊してしまうんじゃないかしら。
……って、私が心配するようなことじゃないか…。
どうせ言ったって、『君には関係ない。何を食べようと俺の勝手だろう』なんて言われるのが落ちだ。
もう分かってるんだから。
私は荷物を椅子の上に置き、バイト先で買ってきた花を、水が入った洗面器の中で水切りする。
お母さんの仏壇に飾る花を買ってきたのだ。
はじけるような笑顔に似合うと思って、ヒマワリを選んでみた。
でも、そろそろ季節外れになるから、これで最後の入荷になるだろうと、涼子さんは言っていた。
ヒマワリの季節が終わり、
新たな季節を迎えようとしている──。
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