{霧の中の恋人}
「キャー!やったぁ!」
私は思わず立ち上がり、手を挙げて叫んだ。
「瑞希?」
その声に気づいた大ちゃんと目が合ってしまった。
気づかれないように、コートの外の芝生でこっそり観戦してたのに…。
「なんだよ。いるならいるって言えよ。
何だって、そんなところでコソコソしてんだ?」
大ちゃんは金網のほうに歩きながら、可笑しそうに笑った。
気づかれてしまったなら仕方ないか…。
私もそのまま金網に近づく。
「べ、別にコソコソしてた訳じゃないないよ。
たまたま通りかかっただけだよ」
嘘。
本当は、引っ越してから大学でしか会えなくなってしまったから、少しでも大ちゃんの顔が見たくて、校舎から離れたフットサルのコートまでやって来た。
顔が見たかったなんて恥ずかしくて言えないから、こうして隠れて見ていたんだ。
それが素直に言えたら、可愛らしいのに…。
なんで素直になれないんだろう…。
「ふーん。
それより見たか!?俺のシュート!
カッコよかっただろ?」
ちょっと興奮気味で、少年のような笑顔で笑う大ちゃん。
可愛いな…。
「見たよ!
綺麗に決まったね!」
私はブイサインを作って、大ちゃんに向けた。
「そうだろー。
今日、調子いいんだよ」
大ちゃんもブイサインを作って、私のブイサインに指を重ねた。
金網越しに触れる2本の指──。
触れ合った指の先に、全神経が集中する。
指先から、大ちゃんの体温が伝わってくる。
ちょっとゴツゴツしてて、長い大ちゃんの指──。