{霧の中の恋人}
「ええ、まあ…」
私は曖昧に返事をする。
「君、大地の幼馴染なんでしょ?」
「そうですけど…。
一体何なんでしょうか。
噂になるような事した覚えがないし。
それに姫って?」
その人は、可笑しそうにクスクス笑った。
「大地がね、君のことばかり話すんだ。
女の子の話には乗ってこないし、そういう話も聞いたことがない。
でも唯一、幼馴染の君の話しはするもんだから、みんな珍しがってね。
その幼馴染って誰だろうって噂になっていたんだ」
「大ちゃんが私の話しを?
一体どんなことを?」
「飲み会も、幼馴染のところに行くからって断ったりね。
元気がないと思って理由を聞いたら、幼馴染が引越したって言うし」
「大ちゃんがそんな事を…」
飲み会を断ってまで私の家に来てくれてたんだ…。
私が引越したこと、寂しいと思ってくれてたんだ…。
嫌だ。
そんなこと聞いたら期待しちゃうよ。
大ちゃんも、私と同じ気持ちでいてくれているのかな…なんて。
「大地は、その幼馴染のことをよっぽど大切にしてるんだろうな。って話してたんだ。
だから、俺たちの間では『大地の姫』って呼ばれるようになった訳。
そうそう、あとね……」