{霧の中の恋人}
目の前で、ジュージューと弾けるような音と共に、ソースの香ばしい匂いが辺りに漂う。
「とりゃー!」
メンバーの『井本さん』が気合いの入った掛け声で、お好み焼きをひっくり返す。
「よしっ、成功!
出来上がったぞー!」
井本さんは満足そうに、額の汗を拭うフリをした。
「思いっきり具こぼしてんじゃねーか!
バカ井本!!」
キャベツや天かすが散らばった鉄板の上を指差して、井本さんの隣に座る『遠藤さん』が突っ込んだ。
「うるせぇな遠藤。食えればいいだろうー」
井本さんは、口を尖らせて拗ねた口調で言う。
メンバーの人の名前を一通り紹介してもらって、私もさっき自己紹介した。
「瑞希ちゃん。焼けたみたいだから遠慮なく食べて。
無残な状態になったお好み焼きだけどね」
わたしの左隣に座る『水原部長』がにっこり笑った。