{霧の中の恋人}
「風呂上がりにキッチンで水を飲んでいると、アルコールやら様々な匂いを漂わせ、ひどく酔っ払った君が帰ってきた。
帰ってくるなり俺を見つけて、おかしな事を言った君は、突然俺の手をとって踊り始めた。
そこまでは覚えているか?」
「……なんとなく…」
私は肩身が狭くなり、身を縮めた。
「そして、アルコールが入った状態で、グルグル回って気分が悪くなった君は……」
次の言葉が予想でき、手で顔を覆った。
どうか、思った通りの言葉が久木さんの口から出ませんように…。
「俺に抱きついたまま、吐いたんだ」
やっぱり…!
もう顔があげられない!
「そのまま意識を手放した君をソファーまで運び、汚れた君の顔をタオルで拭き、風呂に入り直す羽目になった俺に対して、何か言うことはあるか?」
「…ご、ごめんなさい…」
「ここまで話を聞いて、何も思い出さないのか?」
思い出しました。
思い出したくないけど、思い出しちゃいました。
久木さんに迷惑をかけたことも、あの事も、全部……。