{霧の中の恋人}
「不知火さん、お茶でよかったですか?
ほうじ茶なんですけど」
「瑞希ちゃん、サンキュウ!
気がきくぅ!」
お茶を差し出すと、不知火さんは嬉しそうにニカッと笑った。
久木さんの前にもお茶を置いた。
「久木さんもほうじ茶でいいですか?」
「…飲んでやらなくもない」
久木さんはほうじ茶をそっと啜って「熱い…」と呟き、舌をベッと出した。
どうやら猫舌らしい。
ちょっと意外な、可愛い一面を発見した。
「でもさー、シランってばいいよなー。
こんな可愛くて気の利く女の子と一緒に暮らせてよー。
瑞希ちゃんがカワイイからって、襲うなよー」
不知火さんが冗談っぽくからかうと、久木さんは思い切り眉間を寄せた。
「むしろ襲われたのは俺のほうだ」
久木さんはお弁当を口に運びながら言った。