KISS OF LIFE
彼は、眼鏡の奥でニヤッと笑った。

「待った甲斐があったよ」

「…えっ?」

あたしの口からかすれた声が出た。

「彩花ちゃん」

森藤さんの手があたしに向かって伸びてきた。

「いやっ!」

あたしはその手を振り払った。

逃げるように後退りするものの、ドンと言う音と共に逃げ場をなくした。

足が寒さを感じたように震える。

叫びたいのに、声が出てこない。

「怖い?」

森藤さんが聞いてきたので、あたしは首を縦に振ってうなずいた。

「けど、後少しで楽にしてあげる」

森藤さんが近づいてくる。

逃げたくても、逃げれない。

横に逃げようとしたら…。

ダン!

あたしは本当に逃げ場をなくした。
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