弱者
男はヨレヨレの水色のワイシャツの胸ポケットから、これまた水色の小さな手帳を取り出すと、若い女性の目の前へ掲げた。
麻美も耳を傾ける。
『あんのぉーー、すびません、僕達は障害者なんでづけどぉ、
優先席は、障害者が座る席なのでぇ、、どいてくださいーって話しなんですよぉ?! 』
貧乏揺すりなのか、男の左足がドンドンと床を鳴らす。
背中に垂れ下がる黒いリュックサックから、無造作に突っ込まれた雑誌か何かの塊が落ちそうに揺れている。
若い女性は目を見開き、一瞬、それを麻美の方へ向けるが恐怖からか
『あ・・・ すっ、すみません・・・』とすぐに席を立った。