おろし

†どぶおちろの噂†

風が吹く夜。
スーパーヤミズイ付近、人の通る気配がない。
あまりにも寒い今夜、『どぶおちろ』は排水溝のふたの穴から辺りを見渡していた。

そう、あの、小さな排水溝の穴から、まるでヘドロのように、
ブジュルブジュルと湧き出て、形を宿らせる。
遠くから見れば、頭だけが、道路上からヒョコッと出ている感じに見えるだろう。
とくに、今夜みたいな、寒い夜には、ハッキリと姿が見えると言われている。
この不思議な化け物、『どうおちろ』の容姿はというと、
頭には、毛がさほど生えて無く、頭皮は皺皺で、
歯という歯は、ほとんど抜け落ち、
前歯が、申し訳なさそうに一本だけぶら下がっているという汚い口をしている。
その不格好な口内から、ヒーヒーという、湿気まじりの呼吸音をもらし、
よだれのような泥を口から出している。
そう、まるで年老いた老人のような顔つきの化け物である。
その化け物の目はというと、千切りダイコンのように、細く、
皺と区別することができないぐらいである。
ゆえに、何を考えているのかが判断しにくい化け物であるといえる。

そんな化け物、『どぶおちろ』は、昔、ヘドロでいっぱいのドブ、
溝に落ちて死んだしまった浮浪者が、化けて出たといわれている・・・
この街では有名な怪奇である・・・
昼間は、薄暗いヘドロの中にいて、姿を見せる事はないが、夜が来ると、酒を呑んだ人間、
足元がフラ付いている人間を、ドブ、溝に引きずり込み、溺死させるという。
それは、それは恐ろしい化け物で、年間、数えきれない人間、
溝にはまって死ぬといった事件が、この街ではフンダンに起こっているのだ。
この地域の道路の下には、大きな排水溝があって、
何百匹も居るという、どぶおちろの絶好の住みかになっていると言われている。
そして溺死させた人間、獲物のほとんどが、まだ浮かび上がらずそこに貯蓄されるという・・・
彼らの食料・・・または・・・
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