それでも、すき。


「ねぇ今、何か聞こえなかった?」

「そう?」

気のせいじゃない?と
隣の音楽室に居る彼女たちの声が、精一杯の理性を保たせる。


けど、もう頭の芯がぼーっとして何も考えられない。

それどころか、香椎くんの指先があたしの体を撫でる度、思わず声をあげそうになってしまって。



「――柚果…。」

名前を呼ばれる度に
理性すら捨ててしまいたくなる。

全てを、壊して欲しくなる。



「柚果のカラダは、俺だけのモノだよ。」

「…あ、――っ!」



もう、後戻りは出来ない。

あたしに、拒否権などないのだから。




『だから、俺は――。』



聞く事の出来なかった言葉。


香椎くんはあの時
あたしに何を伝えたかったのだろう。




「あ、香椎く…!」

「…大和。」

「……っ!」



…バカだな、あたし。
カラダだけの関係なのに、気にする事自体、間違ってる。

これは交換条件。

秘密の代わりに、あたしはカラダを売ったんだもの。



だから―――。




「……大和…っ、」



それでも、すき。


なんて、言える訳ない。





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