未定
残暑の便り

ポスト


「ただいま」

大学一回生の夏休み。一人暮らしにもなれてきたところで、久しぶりに田舎の実家に帰ってきた。せっかく帰省したといっても誰が迎えてくれるわけでもない。両親は熱海旅行で姉は留学中。しばらくはこっちでも一人ぼっちの生活が続きそうだ。
よく冷えた麦茶を片手に庭に面した廊下に座ってぼーっとする。「ここに来ると何もかも忘れられるな」いつもなら騒がしいと感じるセミの鳴き声も心地よいと感じてしまうほど、今の私は幸せなんだと思う。そして私は、この場所から見える我が家の赤いポストが気に入っている。小さい頃からあのポストの中に宝物を隠したりしているからだろうか。

キキーッ

郵便屋さんが来たらしく、私は足元にあった庭用のサンダルを履いて近寄っていった。
「こんにちは」そう言って受け取った何通かの郵便物を手に廊下に戻ると、適当にパラパラとめくってみた。

「?」

一通だけ私宛で、差出人不明の葉書が紛れ込んでいることに気付いた。「だれだろう」そう思いながら葉書の裏を見た私は、不思議な気持ちに包まれた。「この筆跡どこかで見たことあるような・・・」

《残暑見舞い申し上げます。知ってるかい?僕はもう準備万端なんだ。あとは君次第。》

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