未定
「えっ・・」
咄嗟に言葉が出る。いたずら?
いや、違う。なぜだかわからないがいたずらとは思えなかった。廊下にもう一度座り、麦茶を飲み干しながらもう一度葉書をゆっくり読む。セミの音も聞こえないくらい真剣に。
「?」
いや、違う。真剣だからじゃない。ふと頭をあげるとセミが全部木から落ちて死んでいた。私の額には暑さと違った汗が滲む。見たことがある光景・・・でも思い出せない。
汗を拭っていると、ポケットの携帯電話が震える、相手は母のようだ。
「もしもし、あんた家着いたの?」
「着いたよ。ねぇお母さん、私なんかに残暑のハガキが届いたんだけど・・・」
「あら、懐かしいわね~小学生の時以来じゃない?そういえば元気にしてるかな?名前なんだっけ・・・ほら、いつも短パンからトランクスがはみでてた、顔は中々イケメンの・・・」
「え?何の話?」
「あ、お父さんが呼んでるわ、ちゃんと返事返しなさいよ。じゃあね」
プープー
切られたようだ。そういえば私、小学生の頃のことよく覚えてない気がする。でも返事書かなきゃいけない。そう思った私は居間の引き出しから葉書を取り出し返事を書く。
《残暑お見舞申し上げます。私の方は準備八割方できました。あとはもう少し詰めるだけです。あなたの準備が出来ていて嬉しいです。》
忘れてるのは悪い気がしたから、辺り障りのない程度の返事にした。こんな曖昧でごまかせるかな?差出人はわからないので《トランクスのあなたへ》にでもしておこう。でも宛先がわからない。ポストの前で悩んでいると、さっきの郵便屋さんが通った、ヘルメットをしっかりかぶって暑そうだな なんて思う。
「こんにちは」
本日二度目のあいさつをし、葉書を渡すと受け取ってくれた。
宛先がないのには気づいてないようだ。なんとかしてくれることを期待して家に帰ることにした。この適当で人任せな性格は我ながら気に入っていたりする。