恋愛ゲーム

***

「…よう、樹里」




屋上のドアを開けると。
ドアと壁の隙間から、見慣れた後ろ姿が目に映った。

その後ろ姿は、あまりにも見慣れていて。


すぐに、樹里だってわかるんだ。





『あ…、慎吾』





俺の声に、樹里がぱっと俺の方を振り返る。
その顔には、どこかぎこちなく、いつもと違う表情が浮かべられていて。





「悪い、待った?」





軽く両手を合わせて頭を下げた俺に、樹里は少し困ったような笑顔で『大丈夫』と答えた。

そのまま樹里の側へ行って、フェンスに寄りかかる。





「…樹里」





一つ、小さなため息をついて。

樹里の名前を呼ぶと、樹里はゆっくりとこっちに視線を向けながら顔を上げた。
その目は、…どこか少しだけ、赤くなっている気がした。





『なに…?』





いつもとは違う、ためらいがちで弱い、樹里の声。

俺はフェンスから身体を起こすと、下を向いたまま樹里の正面に立った。
そして顔を上げて、樹里と目を合わせた。


< 116 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop