恋愛ゲーム
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「…よう、樹里」
屋上のドアを開けると。
ドアと壁の隙間から、見慣れた後ろ姿が目に映った。
その後ろ姿は、あまりにも見慣れていて。
すぐに、樹里だってわかるんだ。
『あ…、慎吾』
俺の声に、樹里がぱっと俺の方を振り返る。
その顔には、どこかぎこちなく、いつもと違う表情が浮かべられていて。
「悪い、待った?」
軽く両手を合わせて頭を下げた俺に、樹里は少し困ったような笑顔で『大丈夫』と答えた。
そのまま樹里の側へ行って、フェンスに寄りかかる。
「…樹里」
一つ、小さなため息をついて。
樹里の名前を呼ぶと、樹里はゆっくりとこっちに視線を向けながら顔を上げた。
その目は、…どこか少しだけ、赤くなっている気がした。
『なに…?』
いつもとは違う、ためらいがちで弱い、樹里の声。
俺はフェンスから身体を起こすと、下を向いたまま樹里の正面に立った。
そして顔を上げて、樹里と目を合わせた。