恋人は専属執事様Ⅱ
【side:宝井】
淑乃の姿が水面から消えた時、全身から血の気が引く思いだった。
『あの時』と全く一緒だった…弟の碧(みどり)が溺死したあの時と……
1つ違いの碧は直ぐに俺の真似をしたがった。
あの日も晴天で海も穏やかだった。
俺は碧に泳ぎを教え、碧は直ぐに浮き輪がなくても泳げるようになった。
『藍(らん)兄ちゃーん!僕1人でここまで泳げたよー!』
嬉しそうに手を振る碧に、俺も手を振り返した。
『碧、兄ちゃんも行くからそこで待ってろよ』
そう言って海へ向かった時、母さんの金切り声が響いた。
母さんを一瞬見て視線を辿ると、碧が浮き沈みしていた。
直ぐに海に飛び込もうとした俺を父さんが押さえつけた。
『母さんを頼む』
そう言って父さんは海に飛び込んだ。
そのまま2人共帰らぬ人になった。
俺は海が嫌いになった。
父と言う支えと甘やかし可愛がっていた碧を一度に失った母は、遣り場のない思いを俺にぶつけた。
『アンタが死ねば良かったのよ!』
全くだ。
碧じゃなくて俺が死ねば良かった。
母の傍にいても俺は苦痛しか与えられない。
中等部進級を待たず、俺は寮に入った。
人殺しの俺は、ずっと周りとの接触を避けて来た。
また誰か俺に関わったばかりに死ぬかも知れない。
それが怖かった。
ずっとそうやって独りで殻に籠もって来た。
いつしか俺は、独りで過ごすことに慣れ切ってしまい、人と交わることが煩わしくなっていた。
それなのに…
冷やかしで参加したデモンストレーションで、淑乃を見つけてしまった。
大抵は女に限らず騙される俺の笑顔を胡散臭そうに見て、露骨に嫌な顔しやがって。
ちょっと苛めてやろうと味見した積もりが、いつの間にか俺の方が夢中になった。
酷いことをした俺を責めずに許し受け容れた。
このままだと淑乃は俺の鎧を簡単に剥がしてしまう。
鎧を剥がされたら俺はどうすればいい?
鎧を外した生き方なんて、とうの昔に忘れた。
それでも…淑乃の傍だったら俺は鎧がなくても生きられるのか?
バカバカしい…偶々淑乃の姿と碧の姿が重なって見えただけだ……
淑乃は碧でも父さんでも…母でもない。
開け放した窓から聴こえる波の音を遮る為に、俺は二重になっている窓を全て閉めてベッドへ体を沈めた。
淑乃の姿が水面から消えた時、全身から血の気が引く思いだった。
『あの時』と全く一緒だった…弟の碧(みどり)が溺死したあの時と……
1つ違いの碧は直ぐに俺の真似をしたがった。
あの日も晴天で海も穏やかだった。
俺は碧に泳ぎを教え、碧は直ぐに浮き輪がなくても泳げるようになった。
『藍(らん)兄ちゃーん!僕1人でここまで泳げたよー!』
嬉しそうに手を振る碧に、俺も手を振り返した。
『碧、兄ちゃんも行くからそこで待ってろよ』
そう言って海へ向かった時、母さんの金切り声が響いた。
母さんを一瞬見て視線を辿ると、碧が浮き沈みしていた。
直ぐに海に飛び込もうとした俺を父さんが押さえつけた。
『母さんを頼む』
そう言って父さんは海に飛び込んだ。
そのまま2人共帰らぬ人になった。
俺は海が嫌いになった。
父と言う支えと甘やかし可愛がっていた碧を一度に失った母は、遣り場のない思いを俺にぶつけた。
『アンタが死ねば良かったのよ!』
全くだ。
碧じゃなくて俺が死ねば良かった。
母の傍にいても俺は苦痛しか与えられない。
中等部進級を待たず、俺は寮に入った。
人殺しの俺は、ずっと周りとの接触を避けて来た。
また誰か俺に関わったばかりに死ぬかも知れない。
それが怖かった。
ずっとそうやって独りで殻に籠もって来た。
いつしか俺は、独りで過ごすことに慣れ切ってしまい、人と交わることが煩わしくなっていた。
それなのに…
冷やかしで参加したデモンストレーションで、淑乃を見つけてしまった。
大抵は女に限らず騙される俺の笑顔を胡散臭そうに見て、露骨に嫌な顔しやがって。
ちょっと苛めてやろうと味見した積もりが、いつの間にか俺の方が夢中になった。
酷いことをした俺を責めずに許し受け容れた。
このままだと淑乃は俺の鎧を簡単に剥がしてしまう。
鎧を剥がされたら俺はどうすればいい?
鎧を外した生き方なんて、とうの昔に忘れた。
それでも…淑乃の傍だったら俺は鎧がなくても生きられるのか?
バカバカしい…偶々淑乃の姿と碧の姿が重なって見えただけだ……
淑乃は碧でも父さんでも…母でもない。
開け放した窓から聴こえる波の音を遮る為に、俺は二重になっている窓を全て閉めてベッドへ体を沈めた。