恋人は専属執事様Ⅱ

私はシュノーケルとフィンを藤臣さんに没収され、ライフベスト着用を義務付けられた。
みんなに心配をかけたから、それは仕方ないけど…
私を助けてくれた後から、宝井さんの様子がおかしい気がする。

コンコン。
夜の10時を回っているけど、まだ起きているよね?
流石に本人には訊けず、私は鷹護さんの部屋のドアをノックした。
執事候補生総代として執事候補生を纏める鷹護さんなら、何か気付いたかも知れない…
「誰だ?」
よく通る声と共にドアが開いた。
一瞬目を見開いた鷹護さんは、今度は少し困った顔をした。
まだ知り合って1ヶ月足らずだけど、鷹護さんの僅かな表情の変化が分かるようになった。
鷹護さんは決して無表情なんかじゃなくて、顔に出にくいだけだと思う。
「…どうした?」
ぶっきらぼうな話し方だけど棘はない。
「ここだとちょっと…」
他の人に聞かれたくなくて、私は部屋に入れて欲しいと鷹護さんに訴える。
「こんな時間に女を部屋に入れられない」
憮然と応える鷹護さんを押し切って、私は強引に鷹護さんの部屋に入り込んだ。
「鷹護さん、気付かれました?その…あの……」
勢いで乗り込んだものの、いざとなると言葉に詰まる。
「宝井のことか?」
やっぱり鷹護さんも気付いたんだ。
「そうです。あれから何か…元気がないと言うか…」
「宝井の心配より自分の心配をしたらどうだ?」
突然の鷹護さんの言葉を私は理解出来なかった。
黒いVネックのカットソーにデニム姿の鷹護さんは大人っぽく見える。
「気持ちを抑える積もりはないと言った筈だ」
あっという間に私の体はスッポリと鷹護さんの腕の中に収まった。
「俺が嫉妬深いと知って、他の男の話をするのか?」
耳に掛かる鷹護さんの息が熱い。
「淑乃、俺を見ろ」
有無を言わせない鷹護さんの口調に、私は鷹護さんの顔を見上げる。
「っん!」
コツンと鷹護さんが軽く私に頭突きをした。
「宝井のことは俺も解らないが、今は1人にしてやれ。落ち着いて話したくなれば話すだろう。そんな顔で宝井を見るなよ?宝井も困るだろうし、何より俺が気が気でなくなる」
フッと笑った鷹護さんに
「こんな時間に男の部屋を訪ねるな。何をされても文句は言えないからな」
と念を押され、私は鷹護さんの部屋を後にした。
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