恋人は専属執事様Ⅱ
翌朝、朝ご飯の席に宝井さんの姿はなかった。
…やっぱり何かあったのかな?
昨日の夕ご飯も殆ど食べなかったし、後でサンドイッチでも作って持って行こうかなぁ?
そんなことを考えながら黙々と朝ご飯を口に運んでいると、食堂のドアが開いた。
如何にも寝起きの宝井さんが、急に秋津君の首に抱き付いて締め付けながら文句を言った。
「秋津~俺が朝苦手なの知ってて起こしに来ないって何だよ!」
宝井さんに両腕で締め付けられながら、秋津君は面倒くさそうに
「同室は連帯責任だから授業のある日は起こしますけど、一応今は連休中なんで知らないスよ」
と冷たくあしらった。
へぇ…宝井さんと秋津君は寮で相部屋なんだ。
それで仲良しなのかな?
「つか仮にも執事候補生が自力で起きられないってどうなんスか?」
追い討ちをかける秋津君に、宝井さんは腕に力を込める。
「あまり苛めるな、秋津。宝井も早く席に着いて飯を済ませろ」
どうやら寮ではいつものことらしく、鷹護さんも軽く促す以上のことはしない。
藤臣さんにお願いして、みんなと一緒の食卓でご飯を食べられるようにしてもらって良かった!
寮での生活を垣間見た気がして、私まで楽しくなった。
宝井さんも思ったよりずっと元気で本当に良かった。

今日はみんなで一緒に遊べるようにと、水上オートバイに曳かれたバナナボートが用意された。
パパとママが生きてた頃に沖縄で乗って以来で、私はとても楽しみだった。
でも、松本家所有のこの離島にマリンスポーツショップはない。
誰がボートを曳く水上オートバイを運転するのかな?
水上オートバイとボートが停まっている桟橋まで来て、そんなことを考えていたら
「早くボートに跨れ。しっかり掴まらないと振り落とすぞ」
と鷹護さんがみんなに言った。
…え?
呆ける私に河野さんが
「それじゃお嬢は一番前ね♪弓弦は容赦ないから、しっかり掴まって落とされないようにね!」
と言って、私をボートに乗せてくれた。
他の3人も次々にボートに跨る。
鷹護さんは水上オートバイに跨り、エンジンをかけた。
「鷹護さんが運転するんですか?」
驚いて私が尋ねると、何でもない様子で鷹護さんが答えた。
「16で免許を取って以来、毎年乗っているから問題ない」
エンジンの爆音に私の悲鳴が掻き消された。
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