恋人は専属執事様Ⅱ
「鷹護さんってハンドルを握ると人が変わるタイプですか?」
散々ボートから振り落とされた私の濡れた髪を拭きながら、河野さんが笑って言った。
「だから弓弦は容赦ないって言ったっしょ?」
「しっかり掴まらないと振り落とすと言った筈だ」
珍しく意地悪な笑顔で言う鷹護さんも、心底楽しんだ様子だった。
「あの程度で落ちるなんて、淑乃には向いてないんじゃない?」
涼しげな表情で宝井さんまで便乗する。
「松本は落ちるのが楽しいんだろ?」
遂には秋津君にまで言われてしまった。
「みんな酷いです…」
拗ねてみたけど、みんなに笑われただけだった。
でも本当は楽しかった。
そんなにスピードは出なかったし、落ちてもライフベストのお陰で沈みもしなかったから。

水分補給を兼ねて休憩していると、鷹護さんが
「あのジェットスキーはランナバウトタイプの2人乗りだから後ろに乗るか?」
と言ってくれた。
何だか今日の鷹護さんは、いつもと違って生き生きとして子供みたい。
「弓弦はモータースポーツが大好きだから、お嬢は大変かも知れないけど付き合ってやってくれる?あんなはしゃぐ弓弦も久し振りだから…偶には家のこととか総代とか忘れさせてやりたいじゃん?」
ウインクしながら河野さんが私にそっと耳打ちした。
なんだかんだ言って、本当にこの2人は仲良しなんだから…
宝井さんと秋津君も喧嘩ばかりだけど仲良しみたいだし…
ちょっと羨ましいな。

結局、鷹護さんは全員を順番に後ろに乗せてくれた。
何故か宝井さんだけが振り落とされたけど……
「本当、いい性格してるよね」
濡れた髪をタオルで拭きながら不満そうに言う宝井さんに
「あの程度で落ちる方が悪い…だろう?」
と容赦ない鷹護さんの一言。
宝井さんを乗せた時だけ激しかったように見えたのは気のせいかなぁ?

たっぷりと遊んでクタクタだったけど、長期連休で宿題が沢山出たから、夜の8時からみんなと食堂で宿題をした。
鷹護さんはどの教科も得意らしいけど、河野さんが理数系の方が得意だったから、鷹護さんは文系担当になった。
数学はここへ来る前に終わらせた私は、秋津君と一緒に鷹護さんから現文を教わった。
鷹護さんの教え方は上手で、学園の先生より分かりやすかった。
お陰で予想以上に宿題が捗った。
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