恋人は専属執事様Ⅱ
昼間はマリンスポーツを満喫し、夜はちゃんと宿題をこなし、充実した連休を送っている。
この数日で、執事候補生のみんなとも距離が縮まった気がするし。
連休に旅行を提案してくれた藤臣さんに感謝しなくっちゃ!
丁度その時、ドアをノックする音と藤臣さんの声がした。
「どうぞ」
私の返事から一拍置いて、ドアが開いた。
「失礼いたします」
一礼して藤臣さんが部屋に入って来た。
「淑乃様、お疲れではございませんか?お茶をご用意いたしました」
藤臣さんはいつでも絶妙のタイミングで紅茶を持って来てくれる。
「Harrodsのファーストフラッシュグームティーでございます」
目の前に置かれたカップの中で、黄金色の紅茶がふわりとお花の香りを漂わせる。
「ファーストフラッシュと言うことは…ダージリンでしたっけ?」
お茶の度に藤臣さんが丁寧に説明してくれるから、私でも多少は覚えた。
「左様でございます。ダージリンは紅茶のシャンパンと称えられているのですよ。猫舌の淑乃様にも美味しく召し上がっていただけるように、グームティーにしてみました。多少冷めても変な渋みが殆ど出ませんので、ずっと美味しくお召し上がりいただけます」
こう言った細やかな気遣いが嬉しいのよねぇ…
「私、今回旅行に来て良かったです。藤臣さん、旅行先にこんな素敵なところを選んでくださってありがとうございます!」
私が感謝の言葉の後に頭を下げると
「わたくしはこちらの別荘を手配しただけでございます。淑乃様が良いと思われたのでしたら、それは一緒にいる執事候補生たちのお陰でしょう」
いつもと変わらない優しい笑顔だけど、だからこそ異変に気付く。
藤臣さんは私に何を隠してるの?
それでも、藤臣さんから知られたくない雰囲気を感じて、私は気付かない振りをした。
藤臣さんとひとときのティータイム。
せめてこの時間だけでも、藤臣さんが笑って過ごせるようにしよう。

また時計の針が夜の10時を回った頃、私は鷹護さんの部屋のドアの前にいた。
年長者だからかな?
相談相手を考えると鷹護さんしか思い浮かばない。
コンコン。
ドアをノックして鷹護さんの返事を待つ。
「はい」
ドアが開くと鷹護さんの顔が
『またお前か』
と言っているのが分かった。
「またお前か」
ほらね?
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