恋人は専属執事様Ⅱ
「松本、斬新な味付けしてんじゃねぇよ、バカ」
秋津君の声にふと我に返る。
ヴィシソワーズにお醤油を垂らしていた。
しかも大量に…
秋津君がみんなに分からないように小声で私に話し掛ける。
『普通なの俺と河野さんだけだろ?宝井さんから始まって、藤臣さんに鷹護さんに松本までおかしくなって…ホームシックなんて言うなよな!?話してラクになるなら聞くけど?松本のことだからどうせ奇声上げて悶絶してんだろ?』
秋津君はいつもそうやって、私の面倒を見てくれるよね……
でも今回は、私が自分で解決しなきゃいけないから。
「アリガト、大丈夫だから…」
笑顔で答えたけど、秋津君は釈然としない顔で私を睨んでいた。

今日は生憎の雨で、みんな各自の部屋で過ごしている。
ドアをノックする音が聞こえた。
お茶の時間じゃないから誰だろうと思いながらドアを開ける。
「…よぅ」
立っていたのは秋津君だった。
「俺はお前の『大丈夫』って言葉を信じてねぇから…何かあったんだろ?」
そう言って、秋津君は私の部屋に入って来た。

ソファーに私を座らせ、隣に座ると秋津君は
「バカの考え休むに似たりって言葉があるだろ?松本がいくら考えたって無駄なんだよ。俺が聞いてやるからとっとと話せ、このバカ」
と言った。
本当に口は悪いけど、私を心配してくれているのが分かった。
「でもぉ…」
堰を切ったように私は泣き出した。
秋津君は黙って私の頭を撫でてくれる。
私は秋津君の胸に縋って思い切り泣いた。
漸く涙が止まり、私の呼吸が落ち着くと、秋津君がボソッと言った。
「そんなに泣いてばっかでツラいならやめちまえよ」
見上げると真剣な眼差しの秋津君と目が合った。
「俺なら松本をこんな風に泣かせねぇ。他の執事候補生も藤臣さんも忘れさせてやる。松本は俺がいなきゃ駄目だからな…松本は俺の初恋だから、俺がずっと傍にいてやる」
私が秋津君の初恋?
ポカンと秋津君を見上げたままの私に
「松本って本当に昔から鈍いんだよ。お前と同じクラスがいいから、ずっと勉強見てやってたのに全然気付かねぇし」
それって……
「まだ解んねぇ?俺はずっと松本のことが好きだっつの!」
フイと横を向いた秋津君の顔が真っ赤になっていた。
秋津君はずっと私のことが好き?
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