恋人は専属執事様Ⅱ
【side:藤臣】

仕事に支障を来さないよう、淑乃様とは主人と使用人の距離で接するようにして来たけれど…
この別荘に来てからと言うもの、チリチリと胸の奥底を焦がす炎が日増しに強くなっている。
私は、母校の後輩でもあり生徒でもあるあの執事候補生たちに嫉妬している。
あんな子供相手にこの私が嫉妬など……
いや、彼らが子供だからこそ嫉妬している。
淑乃様と歳の近い彼らが私は羨ましいのかも知れない。
私は淑乃様を心から愛している。
まだ15の彼女を……
愛などあの年頃には重たいだけなのに、それでも私は淑乃様を1人の女性として愛している。
いくら愛しても同じ未来は望めないのに。
彼女は私の主人で私は使用人だ。
分不相応な方に想いを寄せていることは解っている。
だからこそ淑乃様と距離を置き、いつか淑乃様が何方と添い遂げられようともお仕えしようと決めたのに。
子供の恋愛ごっこを見て揺れるようでは、私の決意もまだまだらしい。

給仕の者が手首を捻挫したらしく、時間が空いていた私は代わりを買って出た。
周りの者は恐縮していたが、今の私は何かをして気を紛らわせなければどうにかなりそうだった。
流石に食堂での給仕は気が引けて、厨房で仕上がった物をカウンターから食堂の給仕に渡していた。
未練がましいもので、気付くと淑乃様を視線が追っていた。
淑乃様がヴィシソワーズに醤油を差していらっしゃる……
マズいな…今回の旅行の話を聞いた時に、いつも通りに流さなかったことを気付かれたか?
淑乃様はご自分に寄せられる好意には、相手に同情してしまう程疎くていらっしゃる。
しかし、恋愛感情が絡まないととても鋭くていらっしゃる。
お優しい方だから他人の痛みに敏感なのだろう。
ご自分に向けられる好意に疎くていらっしゃるのは、ご自分の魅力に気付いていらっしゃらないからだろう。

兎に角、主人をいつまでもあんなご様子のままにしていては、名門松本家の使用人頭として…
いや、松本家次期頭首にお仕えする執事として、私のプライドが許さない。
午後になったら淑乃様に新しいお茶をお勧めしよう。
繊細なお茶に合う軽い食べ物も考えて、早くパティシエに指示を出さねば。
私の気持ちと同様に、いつ止んだのか空も晴れ渡っていた。
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