恋人は専属執事様Ⅱ

ライフベスト着用を条件にと、藤臣さんがシュノーケルを返してくれた。
潜るのと比べれば熱帯魚も珊瑚礁も遠いけど、海面から息継ぎなしで海底を見ていられるのは嬉しい。
フィンがあれば機動力が上がるけど、少し目を離した隙に遠くまで行くからと反対された。
初日にいきなり溺れたから、みんなの心配は当然だもんね。

今夜はお月様が綺麗に輝いてる。
私はバルコニーへ出ると、夜空を見上げた。
カタン…
庭側の小さな門から出て行く人影が見えた。
月明かりが一瞬だけ照らしたその顔は宝井さんだった。
あの門からは海にしか行けない。
嫌な予感がして、私は物音を立てないように気を付けながら、急いで宝井さんを追った。

私が砂浜に着くと、宝井さんは足元が濡れるのも構わず波打ち際に立って海を眺めていた。
後ろ姿だけど何だか様子がおかしい……
「宝井さん!」
私は夢中で宝井さんに抱き付いた。
「淑乃?何でこんなところに……」
私を見る宝井さんの目は虚ろで、現実の私を見ていない。
何とか宝井さんを海から引き離そうと、私は力一杯宝井さんの体を引っ張った。
波に足を掬われた宝井さんがバランスを崩し、私に覆い被さるように砂浜に倒れ込んだ。
目の色を取り戻した宝井さんが口を開く。
「淑乃…誘ってんの?」
片側だけ口角を上げるけど、どこか自嘲気味に見えるのは気のせい?
するりとキャミソールが捲り上げられ、胸元が開(はだ)けられる。
右手だけで簡単にフロントホックを外され、胸の膨らみが露わになる。
左手がスカートの中…太腿からスルスルと腿の付け根へと這って行く。
私はずっと宝井さんを見据えている。
「今日は抵抗しないんだ?」
抑揚のない声で宝井さんが言う。
「宝井さんの好きにしてください。その代わり、一緒に別荘に戻りましょう…」
私の瞳から涙が一筋零れ落ちた。
波打ち際に立っていた宝井さんは、儚くて今にも波に浚われて消えてしまいそうで怖かった。
宝井さんが一緒に戻ってくれるなら、私の初めてくらいどうってことない。
パチンと音がして胸に圧迫感を感じた。
「悲しそうに泣く女の子とは出来ない」
キャミソールを下ろし、グイッと私を起こしてくれた。
「初めてはもっと美味しく食べたいからな」
ニヤリと笑う顔はいつもの宝井さんだった。
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