恋人は専属執事様Ⅱ
洞窟の中に入ると少し肌寒いくらいに涼しかった。
鷹護さんから教わった足元が滑りやすい場所に気を付けながら、河野さんとゆっくり奥へ進んだ。
突然、目の前を黒い影が過ぎり、私は思わず悲鳴を上げて河野さんに抱き付いた。
「お嬢、大丈夫だよ。ただの蝙蝠だから」
河野さんに言われて懐中電灯で上を照らすと、確かに蝙蝠が飛んでいた。
「ご…ご免なさい!」
私は慌てて河野さんから離れた。
「いいよ。俺も役得だったし」
人懐こい笑顔で河野さんは言うと、滑ると危ないからと私の手を引いて歩き始めた。

暫く歩いて漸く目的地に辿り着いた。
「写メればいいんだよね」
と言って、河野さんがケータイを取り出したから私もケータイを取り出した。
「折角だからお互いに撮り合おっか?」
河野さんの提案に私も賛成した。
お互いに撮り終わり、来た道を戻り始めた。
「何かもう夏休みを先取りしちゃった感じじゃない?」
河野さんが楽しそうに言った。
本当にそう思う。
まだ5月頭なのが信じられないくらい。
「沢山遊んで思い出も沢山出来ましたよね」
私がそう言うと、河野さんも楽しそうに
「そうそう!こんな風に学園のヤツらと学園以外で遊ぶなんて思わなかったなぁ…てゆうか、学園内や寮でもそんなこと想像もしなかったし。やっぱりお嬢のお陰かな?」
と言って笑った。
「私は何もしていないですよ?みんなが仲良く団結してて羨ましいと思いましたもん」
そう言った私に河野さんは真顔で
「いや、お嬢のお陰だよ。お嬢といるだけで楽しいし…」
と言いかけて、私をそっと抱き締めた。
「独り占めしたくなる」
河野さんの唇がそっと私の唇に重なる。
「…んん…んぅ…」
触れるだけのキスだけど、何度も角度を変えてキスされた。
漸く唇が離れ、河野さんが照れながら
「お嬢が可愛いから我慢出来なくなっちゃった…急にご免ね?」
と言って、また私の手を引いて歩き出した。

こんな簡単に何人にもキスされちゃうなんて…
もしかして私って隙があるのかな?
てゆうか、付き合ってもいないのにキスしちゃうなんていけないよね。
しかも何人もの人とだなんて……
もっとちゃんとしなくっちゃ!

突然ペースを上げて歩く私を、河野さんが不思議そうに見た。
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