恋人は専属執事様Ⅱ
翌朝になっても私の熱は下がらなかった。
松本家専属のお医者さんが往診して診てくれた。
「心労ですな。多感な年頃のお嬢さんにはよくあることですから、そんなに心配しなくて結構。ゆっくり休めば直に良くなりますから」
お爺ちゃん先生は藤臣さんにそう言うと、私に
「お嬢様は何も考えずによく眠って元気になってくだされ。儂も長年このお屋敷に通っておりますが、こんなに狼狽える藤臣さんを見たのは初めてですわ」
と言って、楽しそうに笑った。
解熱剤と鎮静剤を点滴されて、その日はずっと眠って過ごした。

翌日には熱も下がり、たっぷりと眠ったからか、少しだけ心が軽くなったような気がした。
藤臣さんには大事を取ってもう1日休むことを勧められたけど、私は登校することにした。
悩んで苦しくても逃げることはしたくなかったから。
LHRでもう直ぐ行われる体育祭の説明を受けた。
クラスや学年に関係なく、くじ引きで2組に分かれ紅白戦で行われるそうだ。
私は白組になった。
競技はこの学園ならではで、社交ダンス・アーチェリー・乗馬やテニスだった。
テニスなら中学の部活で軟式をしていたから、テニスが良いなぁ…
一応お屋敷で社交ダンスのレッスンを受けているけど、自信がないから避けたいな。
嫌だと思うと呼び寄せるのか、私の願いも虚しく見事に社交ダンスになってしまった…
これから毎日、放課後は体育祭の練習をすることになった。
紅白に分かれ社交ダンスに参加する生徒は第1体育館に集まった。
先生から説明を受けて練習を始めることになると、何故か男子が沢山私の周りに集まった。
口々にダンスを申し込まれ困っていたら
「お嬢様、お相手願えますでしょうか?」
とよく通る声がした。
左手を胸に当て、腰を折ってお辞儀をして、右手を差し伸べる鷹護さんの姿があった。
「…はい、喜んで」
私はスッと膝を曲げて軽くお辞儀をすると、鷹護さんの右手に私の左手を添えた。
鷹護さんのリードのお陰で、私はお屋敷でのレッスンよりも上手に踊れた。
本当は鷹護さんと顔を合わせることがツラかったけど、実際に一緒にいると安心した。
「足を踏まれる覚悟だったが、どうやら杞憂だったようだな」
鷹護さん…私のことを何だと思ってるんですか?
前言撤回です。
< 27 / 59 >

この作品をシェア

pagetop