恋人は専属執事様Ⅱ
「お嬢は白組かー…オレ紅組だから、同じダンスでも一緒に踊れないんだもんなー」
そう言って拗ねる河野さんをちょっと可愛いと思ってしまう。
放課後の練習も随分と進み、私は鷹護さんとペアを組むことに。
鷹護さんのリードとアドバイスのお陰で、基本のワルツとは言え我ながら上達したと思う。
河野さんは紳士淑女クラスの2年の人とペアを組んだ。
練習中に何度か見掛けたけど、相変わらず歯の浮くようなクサい台詞を惜しげもなく駆使していた。
執事と言うよりもなんだかホストみたいでちょっと意地悪を言いたくなった。
「でも相手の人と仲が良いじゃないですか。休憩中もベッタリして、河野さんが次にあの人に仕えるって噂になっていますよ?」
私の言葉に河野さんの顔から笑顔が消えた。
「それ、マジで言ってんの?オレの気持ち知っててそーゆーこと言うのってさ、オレのこと信じてないか迷惑ってことだよね」
私の軽はずみな言葉が河野さんを傷付けたことに気付き、直ぐに謝ろうとしたけど
「解った…もういいよ。付きまとってご免ね?もうお嬢の執事も辞めるから安心してよ」
と言うと、河野さんは早足に去って行った。
どうしよう…河野さんを傷付けちゃった……
私はその場に座り込み、後悔の念で泣きじゃくった。
「どうした?何でこんなところに1人でいる?」
焦りを含みつつもよく通る声が聞こえ、鷹護さんは屈んで私の着衣に乱れがないことを確認してホッとしたみたい。
ただ首を振る私に
「お前は無意味に泣かない。何があったのか話してくれ」
と言い、鷹護さんは優しく私の背中を撫でてくれる。
「私…河野さんに酷いことを…河野さんを傷付けて…」
泣きじゃくり上手く話せない私を優しく抱え込み
「無理強いをして済まない。もう泣くな…」
と言って子供をあやすように背中をポンポンと軽く叩く。
「優しくしな…でくださ…私…最低…」
鷹護さんの腕から逃れようとする私を、壊れ物を扱うようにそっと大切に抱き締めて
「お前は甘え下手だな…偶には甘えないと保たないぞ。河野のことは一先ず俺に預けてくれ。お前は何も心配しなくていい。聖真学園一の美少女が台無しだ」
優しく微笑む鷹護さんは
「何より俺はお前の涙に弱い」
と困った顔で付け加えた。
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