恋人は専属執事様Ⅱ
「元の鞘に収まって、わたくしも安心いたしましたわ」
ランチタイムに二階堂さんが微笑んでそう言ってくれた。
何も言わずに心配してくれていたことが分かって、すごく嬉しかった。
「でもライバルが減らなくて、宝井さんは安心出来ないのではなくて?」
と宝井さんに話し掛ける二階堂さん。
もしかして面白がっているの?
今の私の感動を返して欲しい…
新しく淹れた紅茶を注いだカップを私の前に置き、宝井さんは優雅な笑みを浮かべ
「とんでもございません、二階堂様。お嬢様がお元気にお過ごしになられることこそ、わたくしの一番の望みでございます」
としれっと言った。
穏やかに話している2人の間に、火花が散って見えるのは私だけですか?

恒例のお散歩に出た途端
「あの女、ムカつくな…淑乃にベッタリして邪魔だ」
早速毒づく宝井さん。
折角の綺麗な顔がすごく悪人っぽくなってますよー?
「お前も俺のものだって自覚があるのか?ないなら体に教えてやる」
矛先が私に向き、流石に学習した私は宝井さんに押さえつけられる前に距離を取った。
私はまだ宝井さんにもお返事をしていないのよね…
てゆうか、試用期間って専属契約を交わす執事候補生を決める為であって、恋人を決める為じゃない。
何でこんなことに……
好きと言ってもらって悪い気がする筈はないし、こんなに格好良い人ばかりなら寧ろ嬉しい。
でも、私はまだ好きって気持ちが分からないし、恋人が執事って何か抵抗がある。
「また俺以外のことを考えてるの?」
気付いた時には既に宝井さんの腕の中に収まっている私。
後ろから抱き締められて、ブレザーの袷から侵入した宝井さんの手が私の胸を捉える。
やんわりと胸を掴まれ、私は無駄だと分かっていても抵抗する。
「っやぁ…」
身を捩って逃れようとした時…
宝井さんとは別の力に引かれ、私は宝井さんの腕から解放された。
「どういうことか説明してもらおうか、宝井」
よく通る声が怒気を孕んでいる。
私を庇うように宝井さんの前に立つ鷹護さんの背中が見える。
「カレカノ同士のことまで口出しされたくないですよ、鷹護さん」
迷惑そうに宝井さんが答えた。
カレカノじゃないでしょ!
「とても恋人同士には見えなかったが。抱き合うことを嫌がる女性がお前の言う彼女なのか?」
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