恋人は専属執事様Ⅱ
昨日の放課後の練習が長引いて、たっぷり寝たのにまだ眠い私は欠伸をかみ殺す。
その様子に後ろに控えている河野さんがクスクス笑い
「お嬢様、少し強めのお茶をご用意いたしましょうか?」
と訊いてくれて、それで少しでもこの睡魔から解放されるならと思ってお願いした。
「こちらはFortnum&MasonのアッサムTGFOPでございます。TGFOPはティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジペコの略で、茶葉の等級を示すものでございます。オレンジペコは茶葉の形状が一番大きいもの、フラワリー・オレンジペコはオレンジペコ等級並みの大きさの茶葉で芯芽や若葉が多く含まれております。ゴールデンはゴールデンチップの略で新芽のことで、ティッピーはゴールデンチップが多く含まれたものを意味します。コクがありしっかりとした味わいでございますので、お嬢様のお好きなミルクティー向きでございます」
人懐こい笑顔で河野さんが説明してくれる。
流石は執事候補生次席。
軟派な見た目に似合わず、ちゃんと私の好みを押さえつつピッタリの紅茶を選んでくれる。
しかも紅茶に疎い私に、言葉を選んで分かりやすく説明してくれる。
ありがたいことに、河野さんの説明が終わる頃には紅茶が猫舌の私に適温になっているからすごい。
カップに口を付けて一口飲む。
紅茶の味がミルクに負けていなくて美味しい。
お砂糖がいつもより多めに入れられていて、宿題とダンスの練習で疲れた私はとても癒される。
「美味しいです」
私は嬉しくて顔が弛むのが抑えられない。
「お嬢様のお気に召していただけたようで、わたくしもお勧めした甲斐がございます」
そう言って、河野さんは本当に嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
河野さんの笑顔はビタミン剤みたいで私を元気にしてくれる。
いつも笑顔を絶やさない河野さんってすごいと思う。

お昼休みに河野さんとお散歩をしながら、色んなことを教えてもらう。
いくら鷹護さんがすごいと言っても、執事としては河野さんも負けていないと思う。
私がそう言うと、河野さんは嬉しそうに笑って
「そう言ってくれるのはお嬢だけだよ~もうホントお嬢大好き!」
なんて言うから、私は恥ずかしくなってしまう。
でも、河野さんのこういう素直なところを羨ましく思う。
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