恋人は専属執事様Ⅱ
「お嬢様、そろそろ学園に到着いたします」
相変わらず藤臣さんはオンオフの切り替えがハッキリしていて、私は慣れることが出来ずに戸惑ってしまう。
教室が近くなると騒ぎが私の教室の前で起こっていると分かった。
他クラスの女子が賑やかに黄色い声を上げて騒いでいる。
見慣れない執事候補生が囲まれ、身振りから察するに写メを断っているみたい。
私には関係ないし…
宝井さんと上手く仲直りすることで頭がいっぱいの私は、教室の前で宝井さんの姿を探す。
「お嬢様、おはようございます」
後ろから宝井さんの声がして振り返る。
何故かさっき女子に囲まれていた執事候補生が目の前にいる。
あれ?でも…この背格好と綺麗な顔立ちは宝井さんのもの。
「…宝井さん?髪が……」
宝井さんのトレードマークとも言える、明るい茶色に緩やかなウェーブがかかった少し長めの王子様ヘア。
染めたりパーマをかけたりしていない地毛だと聞いていたけど…
今、私の目の前に立つ宝井さんは真っ黒で真っ直ぐなショートカットをワックスで纏めている。
「おはよう、宝井君。随分と雰囲気が変わったけれど、どんな心境の変化があったのですか?」
唖然として固まった私の代わりに藤臣さんが宝井さんに声をかける。
「おはようございます、藤臣さん。わたくしも2年になり後輩も出来ました。来年はお仕えするお屋敷を決めなくてはいけません。どこへお仕えすることになっても、主人に信頼される完璧な執事である為に、身形にも気を付けるべきだと思いました」
天使のような笑顔もなく、真面目な顔で藤臣さんに答える宝井さん。
「それは良い心掛けです。君は元々優秀ですから引く手数多なのに、慢心しない姿勢は素晴らしいですね」
ニッコリと笑って藤臣さんが宝井さんを誉めるけど…何か言いたそう。
「それではお嬢様、本日もご無事にお過ごしください。後ほどお迎えにあがります」
藤臣さんはそう言うと、私にも周りの生徒にも一礼しながら挨拶して、今日はお屋敷に戻って行った。
まだ呆けている私に宝井さんが声をかけて席まで促してくれた。
いつも完璧なお世話をしてくれる宝井さんだけど、こっそりと毒づいたり口角を上げて笑っているのに…
今日はそういうことが全くなく、本当に『完璧』だけど…らしくないと思った。
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