恋人は専属執事様Ⅱ
歩きながら鷹護さんが小声で話し掛けて来た。
「今日は大人っぽくて驚いた。淑乃は白が似合うな。ウェディングドレスみたいで綺麗だ」
う、ウェディングドレスって…
鷹護さんの言葉に顔が真っ赤になった私を見て、鷹護さんも私と同じ考えに至ったみたいで
「いや、違う。そういう意味で言った訳ではない。本当に綺麗だと思っただけで、決して他意はない。正式に許婚になるとはまだ考えていない。お前の気持ちを優先したいから…いや、今はそこまで考えていない。まだ学生だからそんなことは……違う、許婚のことは関係ない。本当に淑乃が綺麗だと思っただけで、俺は…俺は何を言っているんだ……」
堪えきれずに私は笑ってしまった。
「…笑うな、淑乃」
表情こそいつもの真面目な顔だけど、声にいつもの張りがない鷹護さん。
こんなによく喋る鷹護さんは初めてで、話せば話すほど墓穴を掘る鷹護さんが面白くて…
笑い止まない私に鷹護さんが溜め息を吐いて
「それだけ笑えるなら緊張はしていないな」
と言うから、私は思い出したように緊張してしまう。
河野さんに楽しむって言われたけど、本番が近付いてやっぱり緊張してしまう。
私の表情が強張るのを見た鷹護さんが
「失敗した…淑乃が緊張しない訳がなかった」
と言って立ち止まる。
私と向き合い、腰を落として私の目線に合わせて
「淑乃、一緒に毎日練習したから大丈夫だ。俺が淑乃をリードするから、淑乃は俺を信じて任せて欲しい」
と言ってくれた。
そんなのズルい…
「私がここまで踊れるようになったのは鷹護さんのお陰です。鷹護さんがリードしてくれるから踊れるんです。信じてるに決まってます」
私の言葉に鷹護さんは…何故照れるんですか?
「済まない、必死に話す淑乃を可愛いと思ったらつい…」
つい何ですか?
「だからその目はやめてくれ」
と言って鷹護さんは私に背中を向ける。
「少し待ってくれ、直ぐ落ち着く」
しゃがみ込む鷹護さんは具合が悪そうで、私は不安になる。
「具合が悪いんですか?」
並んでしゃがみ、鷹護さんの背中を撫でる。
鷹護さんがバツの悪そうな顔で
「…生理現象だ……」
と言うから
「トイレなら館内にありますよ」
と言ったら深々と溜め息を吐かれた。
何で?
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