恋人は専属執事様Ⅱ
宝井さんは手袋を外し、泣き止んだ私の目元を優しく丁寧にティッシュで拭いてくれた。
私の脇の下に両手を差し入れ、軽々と持ち上げて立たせてくれる。
本当に見掛けによらず力持ちだなぁ…
ドレスに付いた砂を丁寧に叩いて落としてくれると
「あそこにクラブハウスがあるからそこで待ってろ」
と言って、宝井さんはセラフの方へ戻った。
クラブハウスに入ると木製のベンチがあり、私はそこに座って窓から宝井さんを見る。
セラフの体全体にブラシをかける宝井さんの袖をセラフが首を横に向けて食んでいる。
ブラシをかけ終わり、宝井さんはセラフを引いて馬房に消える。
暫くして宝井さんはクラブハウスに来ると、当然のように私の膝を枕にして横になる。
…自由だな、この人。
暫くそうしていると突然宝井さんが起き上がり、行くぞと言って私の手を引いて歩き出す。
クラブハウスの裏に広い馬場があり、仮設スタンドまである。
まだ準備中らしく、実行委員が馬場の中にハードルを設置している。
「お姫様は特等席だ」
と宝井さんがスタンドの最前列に私を座らせる。
どこかへ行った宝井さんは直ぐに戻り、私に携帯マグを差し出す。
「準備しに行くけどもう直ぐ始まるから、ここでそれでも飲みながら待ってろ。俺に見惚れて零すなよ?」
口角を上げてニッと笑うと、宝井さんは厩舎へ向かった。
私は携帯マグを開けて口を付ける。アールグレイのサッパリしたアイスティー。
朝から作って持って来てくれていたのかな?会えるか分からないのに…
徐々にスタンドが生徒で埋まって行く。
設置が終わり実行委員が撤収し、入れ替わりに馬に乗った生徒が馬場に入る。
みんな似た格好だけど、宝井さんはやっぱり目立つ。
競技が始まり1人ずつハードルを飛び越えて行く。
次が宝井さんの番になり私は緊張する。
チラッと宝井さんが私の方を向くと、ヒラヒラと手を振り直ぐに正面を向いてセラフを走らせる。
……人馬一体ってまさにこのことだと思った。
宝井さんはセラフを体の一部のように自在に操り、華麗にハードルを越えて行く。
みんなの目を釘付けにして、宝井さんの番が終わった。
暫くしてスタンドに来た宝井さんは私を連れ出すと、歩きながら私の耳元にそっと囁く。
「惚れた?」
口角を上げる頬を私は抓った。
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