恋人は専属執事様Ⅱ
お屋敷へ戻っても私は熱心に試験勉強を…
「お嬢様、そのままではお風邪を召されてしまいます」
藤臣さんに起こされて、私は夢から覚めた。
わぁ…ノートが真っ白……
「…ちょっと目を休めていただけですよ?」
それでも嘘を吐く私に、藤臣さんが妖艶な瞳でクスリと笑い
「随分と寝顔を堪能した積もりだが…」
と私の耳元に意地悪くバリトンボイスで囁く。
うぅ…どこにスイッチがあるのか分からない…心臓に悪いんですけど!
大体いつから見られていたのやら…
「ここの振り仮名が違う」
背後から覆い被さるように密着し、私の肩に顎を載せて話す藤臣さんの息が耳に熱い…近い……
「この“見られる”は可能・受身・自発・尊敬のどれでしょう?…淑乃?……淑乃」
藤臣さんの声にやられて浅い呼吸をする私に気付き、甘く掠れた声で私の名前を繰り返す藤臣さん。
「~…お勉強だけ教えてください…」
間違いなく真っ赤であろう私の顔を覗き込む藤臣さんに意地悪…と抗議すると満足そうに目を細めて
「少々お待ちください」
と言って、藤臣さんはバスルームに入って行く。
えっ…ちょっ…何のお勉強?
ドキドキする私を嘲るように藤臣さんは直ぐに出て来てお待たせいたしましたとニヤリと笑う。
…本当に意地が悪いと思う。
ジャケットの内ポケットから細身のメタルフレームの眼鏡を取り出し、徐に掛ける藤臣さん。
「あ…眼鏡?」
「1DAYでもこの時間になりますと目が疲れますので」
…今までコンタクトレンズだったの?
それよりも…眼鏡姿がメチャメチャ格好良い……
メガネ男子が流行ったの、今更だけどすごく分かる…
見惚れる私に藤臣さんはニッコリと微笑んで
「赤点は60点以下で変わりませんね?」
と言うから、嫌でも現実に引き戻された私。
優しい笑顔と穏やかな口調とは裏腹に、藤臣さんの即席カテキョはマナーレッスンよりも厳しかった。
お陰で赤点は回避したけど、私が暫く藤臣さんの眼鏡姿に別の意味でドキドキしたのは言うまでもなく…
笑顔なのに怖いんだもん!今回の試験範囲だけは一生忘れ(られ)ないと思う。
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