恋人は専属執事様Ⅱ
「それで?大人しく結婚する訳?」
仏頂面の宝井さんに尋問されるお昼休みの司書室。
…ここって梅雨時の穴場なの?
「アイツも不甲斐ないね。鷹護家の方が如月家より遙かに格が上なのに見合いさせるなんて」
はぁ…と宝井さんがわざとらしく盛大に溜め息を吐く。
…え?あれ、何で宝井さんが鷹護さんのお家のことを知ってるの?アイツって鷹護さんのこと?訊きたいけど際どい話題だからどうしよう…
「何?義理立て?訊きたいなら訊けば良いのに…苛々する」
顔を見れば一目瞭然だけど
「就活は早い内から情報収集してどうせ狙うならデカいトコ。偶々行ったお屋敷で見掛けた奥様とムカつく先輩の顔が似てて苗字が一緒なら、察しが付かない方がおかしいだろ?松本家ほどの家なら勝手に情報が入って来るし」
とちゃんと説明してくれる宝井さんの言葉に、鷹護さんってやっぱり母親似なんだと変な感心をしてから
「宝井さんは大学に行かないんですか?完璧主義の宝井さんなら大学で勉強しそうなのに…」
と私は尋ねる。
「専属の主人が大学に進学すればお仕えする傍らでの聴講は許されてるけど、執事候補生用の学部も学科も専攻もない。この学園は執事候補生は高等部まで。…淑乃って頭悪いな。今は自分の心配が先だろ」
呆れた顔で言う宝井さんにグリグリとウメボシを喰らいながら、私は痛いと訴える。
不意にギュッと抱き締められ、耳元へ宝井さんの声が熱っぽく囁く。
「他の奴にヤられる前にヤっとくか?」
…は?今?ここで?
目を見張る私に色気のない顔と嗤った宝井さんは
「このまま淑乃を攫いたいけど…俺は生憎そんなに身軽じゃない」
と寂しそうに言う。
この表情は…
「俺にも顔が似てる母親がいるから…一緒にはいられないけど独りにも出来ない。淑乃には思い出しか上げられないけど、一生忘れられないようにしてやるよ」
自嘲気味に口角を上げて笑う宝井さんに
「思い出なんてそんな気弱な宝井さんは嫌いです!私の好きな宝井さんはもっと自信満々な王子様ですから!」
と思わず私は声を上げる。
こんな宝井さん、らしくないよ…
虚を突かれた様子だった宝井さんが
「淑乃からの愛の告白なんて、やっと俺のモンだって自覚した?」
と初めて見せる眩い笑顔で言うから、私はドキドキしてしまう。
愛の告白って…何か恥ずかしい……
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