上弦の月と下弦の月
「よく聞きなさい。」
ピンと張り詰めた空気のなか、母親の声が響く。
「今、この街には敵が来ているの。
私たちの、人間の敵。
伝説と一緒の魔族が。」
「ま…ぞく…」
代々一族で語り継がれていた話のなかに出てきた単語が今、母親の口から飛び出し、2人の不安が引き出された。
「魔族は2人の英雄に異次元返されたんでしょ?」
「そうだけれど、いつかはやってくると言われていた。
その予知は、あなたたちが生まれたときから始まった。
あなたたちには教えなかったけれど、言い伝えには続きがある。
『白く輝きし満月の下、英雄の血を引きし男女の双子が生まれしとき、大いなる予知の子となるだろう。』と。
まさしくあなたたちなの。
私たちは本当かどうかなんて分からないから気にしてなかった。
でも、今それが本当なのだとわかったわ。
───だから。」
母親は大きく息を吐き、悲しげな色を瞳に浮かべた。
父親も決心したと言う顔をしながら、瞳には母親と同じ色を浮かべていた。