嘘つき①【-ハジマリ-】
居酒屋を出て、部長の車の助手席。フカフカ過ぎる椅子に腰をうずめて訳もわからない沈黙の後、
口を閉ざしたままのあたしに部長は笑う。
「愛人…か」
主語も述語もない単語だけの言葉はそれだけで脳を侵していく。
薄い唇が紡ぐ言葉、クッと笑う仕草に、あたしはもう狂わされたんだ。
「ぶ、部長」
あの時の自分を弁護しようにも、先に続く言葉は見つからない。
…冗談です。そう一言言えばいいのに。
何故かこの瞳の前では口はこれ以上開こうとしなくて、ただ、鼓動だけ、早い。
「使い方、間違えてないか」
…突っ込む所はそこですか?