嘘つき①【-ハジマリ-】

あたしの横に当然のように座る彼は、テレビのリモコンを触って、大きな液晶パネルが本来の活動を始める。


「部長…」


あたしは未だにこの場所にいる状況に慣れないのに。


「なんだ?」


あたしは溜め息をついて、すぐに吸い込む。


「この間の事なんですけど、忘れて下さい」


この期に及んでこの言葉は空気を全く読まないけど、それ以外に見つからない。


「…忘れて?いいのか?」


部長の眼鏡ごしの目線にクラクラする。


「い、いや、忘れ、」


あたしは何を言おうとしてるんだろ。っていうか、部長は何を言わせる気で、そんな顔、駄目だ。クラクラする。




あたしが、次の言葉を吐く前に、


部長がゆっくりと席を立つ。


レンズ越しの視線が離されて、あたしは腰を抜かしたみたいに座り込んだ。


< 27 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop