嘘つき①【-ハジマリ-】
今、何時かな?時計のないこの部屋に、感覚の掴めない体をさまよわす。
「…んっ!」
その瞬間、ソファで眠る彼に腕を引かれた。
「…どこに行く?」
優しい声は脳を侵す。
「時間、知りたくて…」
暗闇で良かった。顔が熱い。それに、さっきの事を思えば、恥ずかし過ぎる。
「気にしなくていい」
「気になります、どうして時計ないんですか」
「必要ない」
淡々とした口調はもういつも通りで、あたしはどう答えるのかさえ忘れてしまう。