しあわせ音色
 古川書店は、綺麗に手入れの施された竹林の中にある。


 しかしそこは、背後にそびえる山のせいで、日中ほとんど日の当たらない場所だった。
 おかげで小学生たちからはお化け屋敷扱いされているらしい。


「涼しいねー」


 6月特有のじめじめした空気が、竹林の中ではひんやり感じる。
 竹林に敷かれた、細い小道を抜けた先に、日本家屋の瓦屋根が見えた。


 さらに進むと、その家の引き戸が開いていて、玄関の前に人影があるのがわかる。


 ヤエコさんだ。

「あ、ヤエコさーん」


 わたしが手を振ると、こっちに気付いて手を振り返してくれた。
「二人ともー。いらっしゃーい!」
 ヤエコさんが呼んでいる。二人は駆け出した。


「こんにちは!ヤエコさんっ」

「こんにちは」

「こんにちは。よく来たわね、二人とも。さあ、上がって」


 ヤエコさんモス・グリーンのワンピースをヒラリ翻して、二人を迎えた。


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