My Sweet Sweet home
振り向く必要なんてない。



周りの女たちのギョッとした顔と、なによりその声で誰が来たかなんてしぐにわかる。



あたしは振り向かずにその愛しい名前を呼んだ。



「拓兄。」



「ビンゴ。まあた暴れてやんの。」



そう言って椅子を元あった場所に戻す拓兄。



拓兄の行動はあまりに冷静で、逆にゾクリとさせられるものがあった。



普通こういうのって漫画やドラマなんかだと、あたしがピンチの時に現れて助けてくれるもんじゃないの?



この場合どう考えてもピンチは綾だった。



実際最後の方は容赦ないあたしにみんな怯えてた。



拓兄が来てくれるなら黙ってやられていれば良かった。



あたしの目の前まで戻ってきた拓兄はそっとあたしの頬を触った。



「血でてんぞ。」



拓兄は感情がないような声でそう言うと今度は綾たちの方に向き直った。


そして静かに呟いた。



「なあ、」



ゆっくり綾たちに向かって歩いていく。



あまりにも静かな拓兄にゾクリとしているのはあたしだけではない。



綾たちも初めて見る拓兄の顔に恐れおののいていた。
< 58 / 64 >

この作品をシェア

pagetop