愛の華
「っと…。ごめんな、帰る時間遅くなっちゃうな」
「……いえ、べつに……。」
桃の花から視線を外し、また歩き始める。
右手はというと……―――さっきから握ったまま。
離したくないから好都合だけど、でも…宏太以外の男性と手を繋ぐのは初めてだった
あなたは誰―――…?
ここまで宏太と似ているあなたは、誰なの―――…?
私は横から、男性の顔をじっと見つめながら歩いていた。
「…そういえばあんた、さっき"宏太"って言ってたけど…」
「…………」
「…彼氏?」
何も答えなかった
……――というよりも、答えられなかった。
だってもう、私の隣にいないもの――…。
一ヶ月前に別れを告げられて、それっきりずっと会ってない
会いたくても、会えない――…。
目を閉じると自然と涙が零れた。
きっと私は、それほどまでに彼に会いたくて…それほど彼のことを愛していたのだろう
「ごめん! …もう聞かないから…!」
泣く私の隣で、慌ててそう言った。
そういえば、いつしかあなたはこう言った。
" 女の涙は…男にとって最高の弱点だ "
それは…男から見た女の涙は、どんなことにも勝る
そういう意味だったのだろう
でも宏太…あなたは、大泣きしていたあたしを見ても顔色ひとつ変えなかった
「ごめん」とずっと言って、私から離れていった…。
ごめんね、宏太――…
あの日から涙をながさないって決めたのに、泣いちゃったよ…
あなたのことを考えすぎて―――…。