愛の華



「っと…。ごめんな、帰る時間遅くなっちゃうな」

「……いえ、べつに……。」


桃の花から視線を外し、また歩き始める。


右手はというと……―――さっきから握ったまま。

離したくないから好都合だけど、でも…宏太以外の男性と手を繋ぐのは初めてだった


あなたは誰―――…?

ここまで宏太と似ているあなたは、誰なの―――…?


私は横から、男性の顔をじっと見つめながら歩いていた。


「…そういえばあんた、さっき"宏太"って言ってたけど…」

「…………」

「…彼氏?」


何も答えなかった

……――というよりも、答えられなかった。


だってもう、私の隣にいないもの――…。

一ヶ月前に別れを告げられて、それっきりずっと会ってない

会いたくても、会えない――…。


目を閉じると自然と涙が零れた。

きっと私は、それほどまでに彼に会いたくて…それほど彼のことを愛していたのだろう


「ごめん! …もう聞かないから…!」


泣く私の隣で、慌ててそう言った。


そういえば、いつしかあなたはこう言った。







   " 女の涙は…男にとって最高の弱点だ "







それは…男から見た女の涙は、どんなことにも勝る

そういう意味だったのだろう


でも宏太…あなたは、大泣きしていたあたしを見ても顔色ひとつ変えなかった

「ごめん」とずっと言って、私から離れていった…。


ごめんね、宏太――…

あの日から涙をながさないって決めたのに、泣いちゃったよ…



あなたのことを考えすぎて―――…。


< 8 / 32 >

この作品をシェア

pagetop