嘘つき②【-臆病-】
「確か、琴音さん、でしたよね?」
疑問文はさほど迷っている風でもなく、さらりとあたしの名を呼ぶ。
「ええ、知っていてくださるのね、光栄ですわ。」
「…何だか、そんな丁寧な口調だとくすぐったいです」
冴木さんは居心地悪そうに笑った。
「慣れた口調は中々変えられませんわ。冴木さんが敬語なんて使わないでよろしいのよ。私の方が年下ですし。」
悪戯にウインクするとやっと彼女は肩を下ろしてあたしにメニュー表を渡す。
「おなかすいた。ハンバーグにしようかしら」
あたしの言葉に目を丸くする彼女がおかしい。何か変な事言ったのかしら。
「じゃあ私は日替わりのパスタにします。ここの美味しいから」
今度は照れくさそうに笑う彼女。表情のよく変わる人。それがあたしの印象だった。